あらすじ
1959年、冷戦下のソ連・ウラル山脈で登山チーム9名が巻き込まれた遭難事故。
犠牲者達がテントから遠く離れた場所で、氷点下で衣服をほとんど着けていない、3名は頭蓋骨折の重症、遺体の着衣から高濃度の放射線が検出されるなど、
凄惨な状態で発見されるも、原因が特定されていない事から今なお未解決事件として有名な通称「ディアトロフ峠事件」にアメリカ人ドキュメンタリー作家が挑む。
感想
未解決事件は国内外を問わず、私たちの興味を誘い、インターネットでは人気のコンテンツとして定着した感があります。
事件の異常性や残虐性に注目され、残された多くの謎について、ああでもないこうでもないと意見が交わされるも、決して解決する事がないやりとりを幾度となく見てきました。
本書で取り上げられた「ディアトロフ峠事件」もその特異性から、多くの人が惹きつけられている事件です。
著者の事件へのアプローチの仕方はとても丁寧です。実際にロシアに向かい関係者に話を聞く、自ら事件のあった現場を訪れ現場の状況を知る等、興味を持った対象に対して最大限の敬意を持って接している印象を受けます。
その姿勢は、エンターテインメント的に未解決事件を消費する態度とは一線を画し、犠牲者となった当時のソ連の若者の情熱や、希望に満ちた日常を描き出すことにさえ成功しています。
また、犠牲者達が写した日常風景の写真も多く載せられていて、「未解決事件において命を落とした犠牲者」としてではなく、血の通った一人一人の人間が確かに存在していた、という当たり前の事実を改めて思い知らされます。
本の終盤、雪崩や武装集団による襲撃、兵器実験など、これまでに提唱された事件の原因の説を否定して、著者は事件の真相を提唱します。
これは、確かにミステリー的要素を廃して、科学的知見に基づいた説で可能性としてはあり得るが、若干裏付けが乏しい印象があります。ただ、結論に至るまでに丁寧に描かれた、犠牲者達の人となりや日常生活の描写や実際に現地に
まで赴いた著者の行動力や熱量によって、この本は重厚なノンフィクションとしての力を得て、著者の提唱する真相にも説得力を持たせています。
未解決事件をネットで興味本位で流し読みするだけで無く、じっくりと調べてみたいという方にはお勧めの本です。