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【読書記録】「地名崩壊」を読んで

増加する「ブランド地名」や「ひらがな・カナカナ地名」。安易な地名変更によって、土地から歴史的な重みが失われている現状に警鐘を鳴らすと同時に、あるべき地名の形を考えた一冊。

はじめに

2018年6月、JR山手線では数十年ぶりとなる新駅の誕生に合わせ新駅名の公募が行われました。
その結果、駅名として採用されたのは圧倒的1位だった「高輪」では無く、投票130位の
「高輪ゲートウェイ」。
この名称を巡って否定的な意見が噴出して、駅名撤回を求める署名運動が行われる事態にまで
発展しました。

その名称を聞いて、自分も「格好悪い」「変」と思いましたが、その名称に対してモヤモヤした感情がありました。
思えば、以前では考えられないような駅名や地名(本書ではキラキラ地名・駅名と呼称)が増えてきた気もして、このモヤモヤの正体は何かと考えていた時にこの本を知りました。

本書の魅力

本書では「地名の由来」「駅名と地名との関係」等、地名に関する記述が多岐にわたっていますが、個人的に特に面白かった箇所の感想を書いてみます。

地名の成り立ちと由来に関する詳細な記述について

本書によると、地名とは「二人以上の人の間で共同に使用される符号」であるため、ある土地を他の土地と区別するための機能を持つ必要があります。人々が原始的な生活を送っていた頃は、土地の特徴(地形や地質、土地の条件)を地名とするのが自然な流れになります。

「大曲」や「赤坂」といった具体例を挙げ、地形や地質、山、道などの原始的な時代における地名の由来の具体例を数多く紹介していて、単純にトリビアとしても面白いです。

具体例は網羅的に記述されているので、その点長々しく感じる人もいるかも知れませんが、個人的には、膨大な地名の由来パターンの紹介によって土地の歴史的厚みや多様性を感じられて良い点だと思います。

「神社仏閣駅」について

第2章「駅名と地名との関係」では、寺社仏閣の名前が駅名に採用されているケースが多いと紹介しています。
寺社仏閣への参拝客は、鉄道(主に私鉄)会社にとって重要な位置付けだったようで、縁日に本数を倍増させたケースもあったようです。

駅および鉄道は自治体の枠を超えて存在するため、「寺社仏閣駅」など地名以外の由来をもった駅名が多い事は理解できます。
ただ、鉄道の発展に伴い駅周辺の開発が進みことで、沿線のブランド力を高める方策として駅名を創作する事がキラキラ駅名の増加に影響した可能性も否定できないと思います。

地名と災害の関係

東日本大震災以降、地名と災害の関係が注目を集めるようになりました。地名から地質や地形を判断するだけではなく、「地名に含まれる漢字をみて土地の安全性を判断する」という極端な意見も出てきました。

本書では実例を挙げて地名と地形条件が必ずしも一致しないことを解説しています。「○○という漢字が含まれる土地は危険」と安易に考えてしまいがちですが、それらを「疑似科学」として否定した点が腑に落ちました。

キラキラ地名が生まれる背景

「キラキラ地名・駅名」の発生と並行して、「下」「新田」などの特定の地名の排除、地名のブランド化、ひらがな・カタカナ地名の増加が進んだと紹介されています。また、昭和・平成の大合併による地方自治体の絶対数の減少、統廃合が進み、各自治体に配慮した当たり障りの無い地名が増加する現象も多くあったようです。

これらの動きに共通するのは、その時代に生きる人達のみを対象として、住んでみたいと思える名前にしたり、経済的価値を高める事を優先するために地名を利用している点です。確かに現在に生きる人にとっては有効かもしれませんが、土地(地名)が持っている歴史的重層性は無くなり失われてしまうものも大きいと思います。

私達が「高輪ゲートウェイ」という名前に疑問符を打つのは、単に名前が格好悪い、という点だけではなく、無意識に地名の役割を認識しているからではないでしょうか。

「キラキラ地名・駅名」にどこかモヤモヤした気持ちを持っている人に、是非手にとって欲しい一冊です。